MS工法FAQ
MS工法に関する、よくある質問と答えです。他にも質問したいことがあれば、お気軽に「お問合せ」ください。
設計に関する事項 †
金属溶射された部材にステンレス製のボルトを使用することは*1、問題になりますか。 †
■溶射材料の亜鉛やアルミニウムとステンレス製ボルトのように、異なる金属同士を接して使用すると、一方の金属に集中して激しい腐食が起こります。これが異種金属接触腐食とよばれる現象です。これは金属のイオン化傾向が関係し、イオン化傾向の小さい方のステンレスが陰極(-極)に、イオン化傾向の大きい方の溶射皮膜が陽極(+極)となり、電流が流れ陽極の溶射皮膜が集中的に腐食(消耗)します。特に塩分が多く付着する環境では、その腐食速度が早くなる傾向にあり、基本的には絶縁することが必要です。
■絶縁方法としては、ボルト・ナット部に絶縁ワッシャー等を用いることにより絶縁が可能となります。しかし、ボルトネジ部は孔内部で接触することが考えられ、上記のような現象を引き起こす可能性がありますので、適用には注意が必要です。
亜鉛めっき上への粗面形成材の塗布は、付着力に問題はありますか。ブラストなどの処理が必要ですか。 †
■亜鉛めっき面に対し粗面形成材は問題なく付着します。ただし、亜鉛層が酸化して白錆*2が表面にあるなど粗面形成材の付着を阻害するものがある場合は、素地調整を行い、表面を清浄にする必要があります。また、白錆が生成している劣化亜鉛めっきは導電性がないため、表層の清掃だけでなく十分に研削して導電性の確認をしてください。
既設橋梁に適用する場合の注意点はなんですか。 †
■既存橋梁への施工条件には、次のようなことがあげられます。
- 金属溶射を施工する作業空間(1m3程度)が確保できること
- 適切な素地調整(ブラスト処理および動力工具処理)ができること
- 動力源となるコンプレッサー等の設置場所の確保とその機器等の稼動音が許容できること
- 施工前、施工後に床版や伸縮継手部からの漏水がないこと
上塗り塗装を行った場合、塗替えのスパンは上塗り塗装の耐久年数で決定すると考えてよろしいのでしょうか。 †
■意匠上では、上塗りの耐久年限が塗替え周期となりますが、防食上は溶射皮膜の耐久性能に依存します。
施工に関する事項 †
粗面形成材塗布後から溶射までの間隔は、どの程度必要ですか。 †
■粗面形成材と常温金属溶射の最短時間は、1時間です。ただし、施工条件として粗面形成材が溶射熱で劣化しないように適正な施工条件の管理が必要です。適正な溶射品質を確保するために、標準仕様として24時間以上を提案いたします。
輸送時などにキズがついた場合の補修方法はありますか。 †
■損傷部をグラインダーなどで削り取り、再度、溶射を工程どおり施工すれば対応できます。しかし、既存の溶射皮膜と補修溶射部の重なり部分は、塗装のような仕上り状態にはなりませんので注意が必要です。
従来工法(JIS法)とMS工法との施工に違いはありますか。 †
■従来工法(通称JIS工法)と常温金属溶射法の違いは、まず第一に素地鋼材と溶射金属を密着させるための粗面処理方法が異なります。従来工法では、ブラスト処理により溶射金属が適正に密着する粗さを鋼材自体の表面に付けます。MS工法では、溶射金属が適正に密着する表面粗さを粗面形成材を吹付けることによって鋼材表面に作ります。
■第二は、溶射材料となる亜鉛とアルミニウムなどの混合比率の違いです。従来工法では、亜鉛またはアルミニウム金属を単独で用いたり、Zn85・Al5合金*3やAl95・Mg5合金*4が使用されています。
■MS工法では、亜鉛とアルミニウムを質量%で72:28、容量%で50:50の比率のみを適用しています。これらの溶射金属を溶融させる熱源は、従来工法では電気(アーク)、ガスの両方が用いられ、MS工法では電気(アーク)のみを用います。また、溶射装置や溶射ガンの構造も利用する熱源や溶射材料によっても異なります。
常温溶射を行う上での安全管理項目を教えてください。 †
■粗面化処理と封孔処理工程では溶剤を使用します。溶射工程では溶融された金属が火花状で噴射され、火気使用と同様の状態が発生します。したがって、次のような安全対策が必要となります。
性能に関する事項 †
現在の重防食塗装(ふっ素)と比べ、常温溶射の利点と欠点を教えてください。 †
■鋼材にふっ素樹脂エナメル塗りを適用するには、素地調整としてブラスト処理を施した後、ジンクリッチプライマーを下塗りし、エポキシ樹脂プライマーおよびふっ素樹脂塗料用中塗り塗料を塗布し、上塗りにふっ素樹脂上塗り塗料を塗布します。ふっ素樹脂上塗り塗料は、現状の塗料用合成樹脂の中で最も耐候性に優れるため、耐久性が期待できる塗装仕上げですが、塗膜が素地に達するような損傷を受けると塗膜の損傷部周辺で素地の腐食が拡大します。
■一方、常温溶射は動力工具処理もしくはブラスト処理で素地調整し、粗面形成材を塗布して亜鉛とアルミニウムの擬合金溶射を施します。溶射皮膜は無機の金属皮膜であるため耐候性には優れています。溶射皮膜は損傷を受けても、周辺の溶射皮膜による犠牲陽極作用によって素地鋼材の腐食が周辺へ拡大することはありません。重防食塗装では環境との調和(着色)は容易です。また、溶射の上に塗装することによって飛来する塩分にも耐えられるようになり、耐久性が向上します。
■両者は、比較の対象ではなく補完しあうもの(適用の目的が異なる)と解釈するのが適切であると考えられます。
金属溶射と金属溶射プラス上塗り塗装との耐久性の差はいかがでしょう。 †
■金属溶射皮膜の上に塗装した場合、塗膜の保護作用により金属溶射皮膜の溶出速度が軽減され、防食性能の向上は期待できます。
■金属溶射プラス上塗りの耐久性は、上塗り塗装の耐久性により異なると考えています。
溶射できる金属は、亜鉛とアルミニウムだけですか。擬合金であれば他の材料もありそうですが。 †
■他の金属を使用することは可能です。しかし、現時点では溶射金属の性能と経済性などから亜鉛とアルミニウムの擬合金を推奨しています。今後の課題として経済性に優れ、かつ性能向上につながる溶射金属の検討を進めたいと考えます。
試験に関する事項 †
JIS規格において、塩水噴霧試験や促進耐久性試験など曝露試験と直接的な関連性がないといわれていますが、キャス試験では曝露試験と関係があるのでしょうか。 †
■あらゆる促進試験が屋外曝露試験と直接的な関係がないことは明白です。キャス試験についても、屋外曝露試験との相関性はありません。耐食性試験は劣化要因の中の一つまたは2~3を組み合わせて、過酷な条件のもとで劣化現象を短期間で生じさせて、耐久性を評価しているに過ぎません。だからといって、屋外曝露試験のみでは性能評価に長期間を要して、短期間で有効な情報が得られません。そこで、経験的に適用されている耐食性試験の結果から、実用時の耐久性を短期間で評価するのが一般的な方法です。
■めっきや陽極酸化皮膜などのように、大気中で優れた防食性や耐食性を示す表面処理に対しては、塩水噴霧より過酷な耐食性試験であるキャス試験を適用して、性能評価をするのが工学的には適切であると判断しています。
環境に関する事項 †
塗装はVOCの消滅のように環境保全の方向に進んでいくと思われますが、常温金属溶射は環境保全の面から考えて、問題はないのでしょうか。 †
■現状の常温金属溶射に適用している粗面形成材や封孔処理材には、有機溶剤が含まれているため、環境影響がまったくないわけではありません。これらの材料を無溶剤や水系材料に変換することが、今後の研究開発課題の一つとして挙げられています。
適用範囲に関する事項 †
コンクリートへの適用もあると思われますが、その場合の素地調整はどのようにしていくのでしょう。 †
■過去の実験的な検討によると、コンクリート表面の脆弱層は除去しコンクリートを十分に乾燥させた上で、ウレタン樹脂系の含浸補強材を塗布した後に粗面形成材を塗布します。このようにすれば、コンクリート表面に対しても溶射皮膜の十分な密着強さを確保できます。